こころに秘めたけっして語れないもの
2006.10.08 ( Sun ) |
心が少し解放された日
2006.10.08 ( Sun ) ![]() 突然 予期もせずにこころの中に咲く花は 死と隣り合わせの妖艶な姿で 緋色を含んでいる。 いつでもそうなんだ いつでも突然なんだ。 その想いは そう突然 咲き出すんだ。 ![]() 受話器の向こう側から 聞き覚えのある懐かしい声が聞こえた。 その声は あの日から 避け続けて来た叔母の声だった。 ![]() 4年前のあの日 従弟が心の闇に飲み込まれて 命を絶ったと知らされた時 立ち尽くしたまま 痛みが怒涛のごとくなだれ込んで来た。 わずか220kmの距離すら跳ぶ事が出来無くなってしまった。 まったく同じものでは無いかもしれないが 従弟の闇は自分の中にもある。 叔母の悲痛の想いのなかに浸り その中で自分の闇を増幅させるのが怖かった。 諦めきれない沈痛の情景を目の当たりにすることから 逃げ出したのかもしれない。 ![]() その逃れようとしたはずの情景は 徐々に重さを増し 自分のこころのなかに 鎖を持って繋ぎとめられてしまった。 「お前の母ちゃんと叔母ちゃんとは結構歳が離れていて どっちかって言うと お前との方が歳が近くて 姉弟みたいなもんだから 何かあったら頼むよね。」 長男である従弟を亡くす 少し前に 叔母は笑って言っていた。 その言葉がこころにぶら下がって 叔母の悲しみが 自分のなかで振り子のように大きく揺れる。 残された者の痛みを和らげる術は知らなかったとしても そばに居てただ 一緒に泣いてあげれば良かった。 後悔の念が 緋色の花を咲かせる。 それ以来 叔母の声を避けてきた。 そのことに触れると声も出せずに 情けないけど粉々に崩れてしまいそう。 ![]() 「元気だった。 久しぶりだね。」 そう切り出した声は小さい頃 姉ちゃんと呼んでいた懐かしい叔母の声だった。 あの事には触れずに ありきたりの日常の会話のなかに身を委ねた。 意識的に遠ざかろう遠ざかろうとすると 目の前をよぎる振り子が言葉を止めてしまう。 ゆったりと安否を確かめるように話す叔母の 受話器の向こう側から 幼子のはしゃぐ声が聴こえていた。 「いま しげるの子供が遊びに来ているんだわ。」 ![]() 知らなかった。 次男のしげるが結婚していた事。 叔母に孫が出来ておばあちゃんになっていたこと。 誰にでも時間というものが 平等に降りそそぐとは思ってはいなかったのだけれど 4年という歳月のなかで 足踏みをしていたのは自分だった。 叔母の沈痛の想いと 自分の持ち合わせている闇とを一緒に抱きかかえ それを勝手に増幅させ 自分の時間枠の中に叔母との距離を計ってしまった。 自分の上にも 叔母の上にも それぞれ違った表情を有する 時間の塵が降りそそいでいた。 その時間の表情には悲しみだけではなく 喜びの表情も含まれていたはずなのに 叔母との距離の間だけに 悲しみの時間だけをストップさせていたんだ。 それらは揺らぐ時間のなかで沈殿し 幾重にも層を成して あの大きな痛みを覆い隠してゆく。 ![]() 幾重にも重なった時間の堆積物は 痛みを和らげていったのだろう。 だが その痛みは消滅した訳では無く 沈殿した堆積物の下 養分を得てこころの奥深く成長してゆく。 日々の痛みは和らいだとしても こころの季節に誘発された途端 予告もせずに 狂おしいほどの緋色の花を咲かせる。 四方八方に伸ばした触手(しべ)は あてどなく宙を彷徨う それでいいんだ。 きっとそれでいいんだ。 忘れる必要も無ければ 囚われる必要も無い。 ![]() 4年ぶりに聞く叔母の声の中に 大きな喜びの時間が存在していた。 亡くしたものと引き換えにという言葉は不適切だとは思うが それが時間(とき)なんだ。 こころが すぅーと軽くなってゆくのを感じた。 ![]() 飛べる気がした。 帰ろう。 漆黒晦冥で冷えたこころを暖めたら 翅の乾くのを待って たった220kmの距離を ![]() 手首を傷つけたきみは知っていたのだろうか トンボの翅の付け根には 未来と希望のエネルギーがキラキラ輝いていたことを そのエネルギーで大空を飛んでいたことを きみの傷つけた場所にもキラキラ輝いていたはず。 そんなことは無いのだけれどね そうだって信じてみれば 飛び立てるかもしれない。 ぐるり見渡せば 目の前には未来しか存在しない。 傷ついた過去は こころのなかにしか存在しない。 それはゆっくり 沈殿してゆく。 ときおり浮かび上がる緋色の花を やさしく見つめてあげられれば それでいいのにね。 |
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