BADRUN:

 

     
      
≪ もう寄り添うことしかできない ≪ ≫ 旅立つ前に花は咲く ≫

スポンサーサイト
--.--.-- (--)

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

白昼の幻想
2009.08.23 (Sun)

hakutyumu0908-1b.jpg





冷房の効いた車両からホームに降りると、眩暈(めまい)がするくらいの湿度を含んだ熱気に包まれた。
お昼過ぎの電車とはいえ、階段の上り口にはそこそこの人が集まり、それらに後押しされるように階段を登ってゆく。

京浜東北線、大井町駅の改札口は、階段を上りきった所にある。 
線路は川のように掘られた溝の下を走り、改札口を出たところのバス通りは、線路の上を横切るように東西に走っている。
バス通りには商店が軒を連ね、その両側の歩道には屋根が掛っていて、雨や日差しを遮ってくれている。  
西に向かえば品川区役所があり、これから向かおうとする東には仙台坂があり、その坂を下ると第一京浜と呼ばれている国道15号線に至るのである。


hakutyumu0908-4.jpg





ひと月あまり、斑(まだら)模様の曇天空の向こうで、太陽はすっかり真夏の準備を為終(しお)えたようで、梅雨(つゆ)の切れ間、突然の雷雨のように灼熱の光を隙間なく降らせていた。
アスファルトに勢いよく叩き付けられた光は、音も立てずに拡散し、容赦なく日陰にも跳ね返っている。

目の前の歩行者用信号が青に変わると、日射の夕立を避けるかのように、足早に横断歩道を渡り、冷房の効いている書店に飛び込んだ。
棚の中から、目的の一冊の文庫本を手に取ると、レジに向かった。 

『赤毛のアン』である。




hakutyumu0908-2a.jpg




本屋を出て、仙台坂方面に向かうとすぐに、ぜームス坂の交差点がある。 
ゼームス坂は、北に位置する京浜急行線、新馬場駅方面から登って来て、このバス通りにぶつかり、T字型の交差点になっていた。
ゼームス坂の途中に、『千恵子抄』で有名な高村光太郎の妻、千恵子が、終焉の地として入院していた『ゼームス坂病院』が在ったところだと、彼女から聞かされていた。 だがその病院は今は無い。

ゼームス坂の信号を反対側に渡り直すと、八百屋の前で足を止めた。 店先に並べられた幾つかの果物の中から、無花果(いちじく)を一パック購入した。

仙台坂に向かって少し歩くと、目印である鮨屋がある。
その店の手前の路地に入った。 鮨屋側の壁にはお店の道具やビールケースが並べられていて、ただでさえ狭い路地を、いっそう狭くさせていた。 
反対側は日陰のためか育ちの悪い生垣で、容易に中を覗くことが出来てしまう。
他人の敷地内に無断で入った時のような、ちょっと後ろめたさを感じる細い路地であった。

日陰になった路地を抜けると、すこし広い通りにでる。 
遮るものが無くなり、真夏の日差しが、強烈なコントラストの風景をつくりだしている。 右手の方を見ると、ハイキーに白飛びしたモノクロームの風景の中に、咲き残った立葵(タチアオイ)の鮮烈な赤が飛び込んできた。

そこが、彼女の入院している病院である。

灰色にくすんでいるとはいえ、2・3回は白く塗り替えられたであろう外壁は、真夏の日の光を跳ね返すには十分で、そのたたずまいは病院というよりは、ちょっと大きな診療所という雰囲気である。
廊下は蛍光灯の光で照らされ、外の強烈な光の中から入ると、若干薄暗さを感じる。 
廊下正面の突き当たり、曇りガラスの窓から差し込む夏の光は、くっきりとした光の形を確認できるほどであるが、スポットライトのようで長い廊下全体を明るくすることは出来ないようである。


hakutyumu0908-5.jpg



階段を上がり、病室の名札に彼女の名前を見つけると、一呼吸して、開け放された入口から、そっと中を覗き込んだ。 
相部屋の右手一番奥、窓際に彼女の姿を見つけると、躊躇しながらも相部屋の女性達に軽く会釈をして、彼女のベットに向かった。
「あら~。 ○○さんの旦那さん。 若いわね~」 
「○○さんいいわね~。 ご主人が来てくれて」 
次々に掛けられる女性達の挨拶の言葉に返す事もで出来ず、恥ずかしそうにまた、軽く会釈をしてその場をやりすごした。 彼女達は皆、年上に見えた。 

こういった女性だけが居るところは、苦手であった。
それを察知してくれたのだろう、彼女はベッド脇の丸椅子に座る事を勧めると、仕切りのカーテンを半分ほど引いてくれた。

「これっ」
「あっ。 覚えていて、買って来てくれたんだ。 小さい時、読んだ事あるんだけど、もう一度読みたかったんだ。 結婚した時の持ってきたダンボールの中にあると思うんだけど、探すの大変だからね」
「それにこれも。 無花果(いちじく)。 無花果って、まだ食べた事無かったからね。 だから、これにしたんだ」
彼女は、『赤毛のアン』の単行本をペラペラめくりながら、自分の食べたい都合で、お見舞いの果物を買ってきた私を見て 「食べてみる?」 と言って笑った。

果物ナイフで小分けされた、無花果のひとかけらを口に含んで、「まずいね」
「うん。 美味しくないね」 と目をあわせて、また笑った。
八百屋さんで一パック、500円にも満たない果物が、美味しかったためしが無い。
その当時のふたりには、それが精一杯であったが、それで十分幸せであった。

病室はクーラーが効いていて、快適な温度であった。
「昼間はクーラーが、かかっているからいいけど、夜は止められちゃうから、窓を少し開けておいても、暑苦しくて眠れないの」
窓の方に目をやり、ぼんやりと彼女の話を聞いていた。
窓の外には、隣家の塀からはみ出した樹木に、オレンジ色の花が咲いていた。 その花が、『ざくろの花』だったのか『のうぜんかずら』だったのか思い出せないが、夏の日差しを浴びた濃い緑の葉の中に咲く、オレンジ色が印象的であった。 

彼女は、お産の為、実家に帰っていたのだが、切迫早産の危険があって入院していた。

三週間ほどして彼女は退院して、実家に戻った。



hakutyumu0908-3.jpg



それから何日もたたずに、破水したらしいから病院に行くからと、朝方連絡を貰った。 午前中に仕事を済ませ、その足で病院に着いたのは、午後2時頃であった。

すでに出産は終わっていて、無事、男の子であったことを、看護師さんから聞いた。 彼女は、個室に移されていて、お義母さんが付き添っていた。
お母義さんは、これまでの過程をひとしきり話すと、気を利かせ二人だけにしてくれた。

このとき彼女に、労(ねぎら)いの言葉をかけてやらなかった事を、今でも後悔している。  
初めてのことであり、なんて言葉をかけたら良いのか迷ってしまった。 なんだか「愛しているよ。」って言う言葉よりも、恥ずかしく照れ臭かったからだ。
彼女の頬とそして唇に軽くキスをして、その場を誤魔化してしまった。


映像はハッキリと鮮明であるが、時間とともに記憶は増幅され、輪郭は曖昧になっていく。

新生児室のガラスの前で呆然としていた。

出産予定日より早く、2500gの未熟児ぎりぎりで産まれたと聞いていた。
ガラスの向こう側には、キャスターの付いた小さなベットに寝かされた新生児が3人、こちらを向いて寝かされていた。
右から2人の赤ちゃんは、可愛い可愛くないはさておき、しっかりとした赤ちゃんの顔をしている。

問題は左端の、どうも我が子であるらしい、生き物である。
いや、これではないだろう。 と我が目を疑ってしまった。 ほかの2人に比べると、はるかに小さい。 半分ほどと言っても、大袈裟では無いくらいである。

それに、どうみても、とても人間には見えない。 ニホンザルの赤ちゃんと言うよりも、雑誌『ムー』で見たグレイタイプの宇宙人にそっくりである。 
なんとか、いい所をさがそうとするのだが、開けたらきっと大きいだろうなと感じさせる、切れ長の目だけである。 
だがそれも開けたら、宇宙人のようにアーモンド型で、真っ黒な目だったら、と思うと不安であった。

それ以上に衝撃を受けたのは頭で、なんと、尖っていて長い。 顔の2倍はありそうで、例えると七福神のひとりである布袋様のような頭である。 
もっと言うと、ドラゴンボールに出てくるナメック星人のピッコロ大魔王のような頭をしていた。 ナメック星人は緑色であるが、我が子は、他の子に比べると、異様に黄色いのである。 
普通は、赤子と言うくらいだから赤いのだろうが、う○子とかカレー子とか言ってもいいくらいに黄色いのであった。

picorodaimao-1.jpg



こんなに尖って長い頭などは、マンガやSFのスターウォーズやスタートレックの宇宙人でしか見たことが無い。

呆然としながらも、わたしの頭の中はフル回転で、我が子の将来の事を考えていた。
まず、手始めに、この子の頭を隠す帽子を作ってやらなければ、それもたぶん特注となるだろう。 いったい、いくら位の金額で特注の帽子はできるのだろうか?
デザイン的には、どういった形が、いちばん目立たないであろうか? 山高帽が尖った頭を隠すにはベストだと思うが、赤ちゃんの時から山高帽では、余計に目立ってしまうだろう。

そういえば彼女は、生まれてくる子の為に、フリルのついた白いベビー帽子を用意していたが、それも作り変えなければいけない。 彼女に直すことが出来るのだろうろうか?
とりあえずは、ベビー帽子で良いとしても、それから先は、包帯を巻いて怪我をしたふうに装うか。
そうだ! インド人がやっているターバンが、いちばん良いだろう。
それも、いちいちターバンを巻くのは大変だろうから、簡単に被れるように工夫しなくては。 夏は暑いだろうから、メッシュのターバンとかも考案しなくてはならない。

これらの事は家に帰ってからもう一度、良い方法が無いか考えてみよう。 などと脳味噌をフル回転させて前向きに妄想している横に、お母義さんがやってきた。

「よかったわね。 五体満足、無事に生まれてきて」
「はぁ~」 と気の抜けたような返事を返してしまった。

これでは五体満足過ぎる。 

ここでお母義さんが『ずいぶん、頭の尖った子だねえ』 と言ってくれたなら、『そうですねぇ。 いったいこの先どうしたらいいんでしょうか?』 と相談も出来たはずである。
この子を見て、これだけ目立つ尖った頭の事に触れないってことは、お母義さんも気を使って、自分の口からは、言えないのだろう。 と思うと、ますます深刻な不安となってくるのであった。




picorodaimao-2.jpg


「明日から、このベッドの横に赤ちゃんが来るから、新生児室に行かなくても、いつでも見れるわよ」 と彼女が嬉しそうに言った。

彼女は、長男を出産したその日の内に、相部屋へと移されていた。
彼女の口からもお医者さんからも、私が心配している事についての話がないまま、2日が経っていた。
彼女の何の不安も無い笑顔に、より一層の不安を抱き、ついに自分の方から口に出す決心をした。
「あのね ・・・・・・・・・・ うちの子他の子に比べると、ちょっと黄色くないか?」
ためらった後に出た言葉は、本題ではなく二番目に気になっていた事が口をついて出て、自分でも驚いてしまった。
「ああ、黄疸がでてしまったみたいなの。 たぶん大丈夫だって、お医者さんが言ってたから、大丈夫よ」
「あ、そう。 たぶんね。 ふ~ん。 ・・・・・ ん~ たぶんね。  えっ~と! ・・・・・ それにさ。・・・あたま、 他の子より、とがってないか?」
「あっ、それね。 ほら、初産でしょ。 だから、産道が狭くて引っ張り出したから、ああなっちゃたの」
「へえっ?」 
 ≪ そりゃ、確かに狭いだろう。 いくら小さく生まれたからって言っても、俺のより断然大きい訳だし、だからと言って無理やり引っ張り出して、ああなっちゃいました。 とか言われてもなぁ。 ≫

「それにね。 出口も狭いから、あそこ切られちゃったの、すご~く痛かったんだよ」
「あがっ?」
 ≪ え”っ~。 あそこ、切られちゃったの? あ”~ぎゃ~痛そう~、考えただけで貧血起こしそうだよ。  まてよ、あんな大きなものが通ったうえに、切られちゃったら、あと使い物になるわけ。 おれ、これからの夫婦生活に自信もてないよ ≫

「大丈夫。 ちゃんと縫ったから。 また、へんなこと考えてるんでしょ」
「はぁ~」
 ≪ そうか、ちゃんと縫ったのか。 それだったら、縫う前になんで一言いってくれないのかな。 相談してくれれば、もうひと針、余分に縫ってもらうんだったのになぁ。  あれ? 彼女、なんで俺の脳内で考えてる事、わかるわけ?≫

「生まれたばかりの赤ちゃんは、頭の骨がしっかりしていなくて柔らかいから、徐々に元通りになるから心配しなくて大丈夫」
「柔らかいって言ったって、ほら、頭ってこんなに硬いんだよ。」
「それは、あなたの頭でしょ。 赤ちゃんのは違うの、まだ継ぎ目がしっかりしていないから、これからどんどん硬くなって元に戻るの」
「それなら、柔らかいうちにぺたぺたやって、上から押さえ付けたりして、今のうちに形を整えた方がいいんじゃないの?」
「粘土じゃないんだから、大丈夫なの!」
「そっか~ぁ? ・・・ ??? 初めてなのに、なんでそんなに自信たっぷりなんだよ?」
「生まれる前に、ちゃんと勉強したも~ん。 あなたと違って」

この時から徐々に、彼女とわたしとの立場が、逆転しはじめたような気がする。


彼女と赤ちゃんが家に戻ってきてすぐに、子供の頭の形が良くなるという、ドーナツ枕なるものを購入した。
子供の頭が良くなる、のではなく、単なる形が良くなるだけである。 その枕をさせて放って置いても形が良くなる訳でも無さそうである。

わたしは家に居る時間のほとんどを費やして、まだ首の据わらぬ子供の頭を、一時間置きに右に向けたり、真上にしたり、左に向けたりしていた。
その姿は、知る人ぞ知るブランド品と言われる、波田村の『下原スイカ』を育てている生産者農家のようであった。 日の当たらないところがないように、満遍なくという感じである。

その努力の甲斐もあって子供の頭は、布袋様やピッコロ大魔王のような頭になることもなかった。 
高校生の時、息子が丸坊主にした事があったが、その見事な頭の形に、何処の品評会に出しても、必ずや金賞を射止めるであろうと確信して、おのれの努力ではあるが惚れぼれしてしまったのである。

このことで、多くを学んだわたしは、次に産まれた長女・次女に対して学んだ事を実行した。
おかげで、長女・次女の頭の形は、ものの見事な扁平頭、左右どちらかが平らになっている、絶壁頭となっているはずである。
長男で大きく学んだ事とは、頭の形を良くするのに、一時間ごとに向きを変えるのは、労力を要し、大変面倒くさいということであった。

それに、女の子であるわけだから、髪の毛で覆い隠されるであろうから、どんな頭の形をしていようが、尼さんにならない限り、わからないであろうと思ったからである。 愛情が薄れていったというわけでは無い。 確かに長男に比べると、スナップ写真の枚数が下に行くにつれ%A・@8困辰討い・箸い・・造呂△襪・△修譴・・陲離丱蹈瓠璽拭爾料瓦討任呂覆い里任△襦く

たぶん彼女達の頭の一方向は、日に当たらなかったスイカの一部分のようにへこんでいて、黄色く変色しているであろう。 ひじょーに興味はあるが、それを今知ることは、大変危険を伴う事である。


知らぬが ほっとけ。 ということである。






        あっ!! あたまが長い!!

picorodaimao-3.jpg


        おまえたちに、言われる筋合いはない!








『 堕天使のセオリー 』 より






≪ もう寄り添うことしかできない ≪    HOME    ≫旅立つ前に花は咲く ≫
     

profile

  えび

〇 Link free     ありがとうございます。 感謝しています。
気に入って頂けました画像がありましたら 著作権は放棄しておりませんが
個人的に使用される場合のみ お持ち帰りになって個人の責任において
使用および二次加工して頂いても結構です。
一方通行的なBLOGであることをお許しください。 観てくださった皆様に感謝しています。

  えび

     
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。