BADRUN:

 

     
      
≪ 南アルプスと八ヶ岳の谷間 ≪ ≫ 夢 餓 霧 中 ≫

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UME
2010.02.05 (Fri)

koubai1002-1.jpg



『殺風景な公園だねぇ』

公園の遊歩道に沿って植えられた 三又(みつまた)の植え込みの向こう 青年に付き添われて お年寄りが歩いてくるのが見えた。

その歩みは 太陽が落とす光りが生み出した 影の速度と同じくらいの ゆっくりした動きのように思えた。
しかしその声は驚くほど大きく 自分が耳が遠いことを自覚しているようで 相手にも大きな声で話しかけているようであった。

たしかに 数年前に整備されたばかりの公園は 一面 芝生が敷き詰められていて 先の住宅が見渡せるほどで 視界を遮るものはほとんど無かった。

だが ところどころに植樹された まだ背丈の十分でない樹木が 四季折々 きれいな花を咲かせてくれることを知っている。


『何かい これはネコヤナギかえ?』
うっすらと柔らかそうな産毛にくるまれた 膨らみかけた三又の蕾を見ているのだろう。
青年は黙ったまま 柔らかそうな笑みを浮かべている。 
きっとこの花の名前を知らないのだろう。

『何かい これはネコヤナギかえ?』
歩みを進めて また お婆ちゃんは問いかけた。
その答えから逃れるかのように
『高野さん ほら あそこに紅梅が咲いていますよ』
青年は名前に自信のあるであろう 花を指差した。

その答えは 高野さんと呼ばれたお婆ちゃんの耳には届かなかったみたいで 紅梅と反対の一番近い樹木を見つめ
『この木は 何の木だかえ?』
『高野さん これは藤ですよ 藤の木』
『そうかえ 藤かえ』

ベンチに木陰を作るために組まれた藤棚のようではあるが 残念なことに そこに植えられているのはアケビの木であった。


それまで彼女に寄り添うだけだった青年が 彼女の肩をそっと抱き やさしく向きを反転させた。
『高野さん 紅梅が咲いてるんですよ ほら そこに』
『紅梅がかえ? どこにだえ?』

ぼくとその後ろにある 大人の背丈の二倍ほどの梅の木の方向を 真っ直ぐ凝視しているが 紅梅が見えないらしい。
小枝に沢山の花をつけたその紅梅は まだ痩せ細っているが 冬の殺風景な公園の中で かなり遠くからでもその存在感を主張している。

青年にゆっくりと背中を押され ぼくの真下で立ち止まり不思議そうに ぼくを見上げている。 ぼくは梅の花じゃないけど 軽く会釈することしかできないでいた。

『高野さん 違いますよ。 もっと前』

彼女は 梅の木に数センチまで近づいて 声を上げた。  
『あら! ほんとだ。 梅の花が咲いてるわね。 これは赤いねえ』 

見えるすべての景色がピンボケの中で マクロレンズのピントが合う距離まで近づかなければ その世界を知ることができない。

『高野さん よかったですねぇ』
青年は彼女の喜ぶ声を聞いて うれしそうに言った。

『高野さん 風も出てきたみたいだし そろそろ戻りましょうか?』
『そうだね 紅梅も見れたし よかったよ』



彼女にとって 花の名前が正しいか正しくないかなんて どうでもいいことなのだろう。
それよりも 話しかけられる相手がいるって方が 何倍も大切なこと。


何もしてあげられない ぼくなんて殺風景な景色の一部にしか過ぎない。









koubai1002-2.jpg



太陽は惜しみなく光りを降り注いで 空は雲ひとつなく澄み渡ってはいるが 二日前に降った雪がまだ日陰に残っていて あたり一面の空気をピリッと引き締めている。

陽だまりの公園と呼ぶには まだまだ 暫く先のことだろう。



ちょっと恥ずかしいくらい 大きな声で
『元気かい 風邪なんかひいてない?』

いつしか殺風景な風景の一部にならないように 澄み切った青空の彼方 ここより寒いであろう土地に向かって 電波を飛ばした。 
 







koubai1002-3.jpg



Canon PowerShot G11

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  えび

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